アナザーワールド(サンプル)

 ──プロローグ

 黒や紺の、制服姿の若者の固まりが見える。学長はため息を一つこぼすと、窓を閉めて椅子に座った。大学の受験者は年々減ってきている。優秀な人材を輩出しているこの斗南大学でさえ、少子化の影響は顕著に現れていた。
「……どうされます?」
 学長に背を向けて、一人の男がタバコの煙をくゆらせた。
「……方法はある」
「万が一、人数が達しなかったら……あの件は……」
「わかっておる。センター試験組もいるしの。正式な数が判明するのはまだ先だろう?」
 学長はこっそりとため息をついて男の後姿を睨むと、電話に手を伸ばした。

 

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きたかぜ(サンプル)

──プロローグ
 
  真っ暗な部屋に琴子の規則的ないびきが鳴り響く。直樹は聞きなれた様子で、真剣なまなざしでパソコンに向かっていた。マウスを器用に動かしてメール画面を開く。文面をなめるようにして見、手帳に印をつけると、直樹はパソコンの電源を落としてベッドへともぐりこんだ。

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夜にゆられて(サンプル)

「入江さん」
  秘書に呼びかけられて顔を上げると、秘書が言いにくそうに口を開いては閉じ、何かにおびえるように小さな声で続けた。
「そろそろ、私は失礼しても宜しいでしょうか」
「あ、はい……。今何時ですか?」
「十時を過ぎました」
「そうですか、遅くまで申し訳ありません」
  朝は前日に残した書類に目を通す。処理をしている間にも次々と案件が舞い込んでくる。昼を逃すことも珍しくないし、そんな時間があれば仕事をしていたいのだ。だがそれはこちらの勝手であって、周りに迷惑をかけることもあるのだ。秘書はおそらく、ここ何日かは特にいつ帰宅していいものか途方にくれていただろう。全ては俺のせいだ。

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