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きっと


「きっとうまくいくよ」

無機質にこぼれおちる言葉に感情などいらない。
ざらざらと心を撫でる手には、いずれ麻痺して慣れていく。
だから、対処療法としてたっぷりとハンドクリームを塗りこんでいく。
いずれ手は治るし、心もだんだんとその感覚に慣れているはずだ。
だから、この痛みにしばらく耐えればいい。
そうすれば、きっと、うまくいく。

祐樹は、だって、でも、としばらく口ごもっていたが、ため息を残して廊下へ消えた。

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文字の羅列が頭に入ってこないから、音を立てて本を閉じた。
さきほどの琴子へかけた言葉を思い出し、我ながらよくも残酷なことが言えた物だと苦笑する。
なにごともストイックに、事務的な言動に終始し機械的に処理するのならば、
淀みのない言葉を選んで穏やかに琴子をあきらめさせることが出来たはずだ。
日々の仕事のように。うわべの言葉で。

感情的になるのは、少なからず、琴子が相手だからだ。

あの言葉で、琴子が自分を嫌いになれればいいのにと思う。
本当に冷徹な男で、二度と近づきたくないと。

一方で、生涯、笑顔は自分へ向けて欲しいとも願う。
さきほど泣かせた男が、なんて身勝手な願いなのだろう。

気持ちを知りながらそれを利用し金銭を得るためずるずると女にすがる男とどこが違うというのか。
会社のため、親父のために考え抜いて決めたことではあるけれど、情けなさでは自分のほうがずっと勝っている。

情けないことに、あきらめるには自分の気持ちと向かい合ってはいけないのだ。
自己を分析し、この感情の揺れの根源を特定してはならない。
清里で唇をかさねた理由を求めてはいけない。

自分が台風の中心となり周りをかき回し傷つけても、やがては温帯低気圧に変わり東へ抜けていくのだから、それまで台風の目のごとく無風でいられればいいのだ。
ぬるい湿度の中を歩いていくだけ。
ただそれだけ。

2008年7月22日

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