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間奏曲


ボクが初めて「ナオちゃん」に会ったのはですね、
それこそナオちゃんがまだハイハイをするかしないか、ってくらいだったから、
そうだな、二十年にもなりますかねぇ。

レースのたっぷりついた、それはそれはかわいらしい服を着てね、
まん丸で愛嬌のいい、本当にかわいらしい女の子でしたよ。

え、あはは、そうなんですよね。
その次ナオちゃんと会ったのはそれから十年後くらいかな。
それまでは社長…ご主人の会社に出向いて、秘書さんとやりとりをしていたからね、
ずいぶんと久しぶりにご自宅へお邪魔したんです。

そう、奥様用に新しい車が欲しいとのことでね、小回りの利いてちょっと遊び心のある車をとのことだったものだから、
運転をする奥様に直接お話をお伺いすることになりましてね。

奥様がお茶菓子を探している時、奥からやたらと賢そうな男の子がこちらを覗いていてね、
ずいぶんと奥様に似ていたから、ご親戚かなと思って「おいで、ボク!」なんて声をかけちゃって。

「ボク、親戚の子?」「遊びに来てるの?」なんて質問をしたけど、答えてくれなかったんですよねー、抱えた本を読み出しちゃって。
十歳くらいの子がだよ、こぉーんな分厚い本を、細かい文字の本を読んでるんだもの、びっくりしちゃいましてね。

あとで奥様にきいたら、その子があの「ナオちゃん」だっていうんですもん、再び驚きでしたよ。女の子じゃなかったの?ってさ、あはは、ちょっと配慮が足りなかったかなって今は思ってますよ、ナオちゃんも大変だっただろうなあ。

そうしたら、ナオちゃんがキッとこちらを見て、「オジサン、質問があります」って。

なにかなと思ってたら、「ミッドシップは曲がりにくくないんですか?」って。

確かに、奥様にはミッドシップタイプの車をオススメしていたんですけどね、まだ欠点も特徴も申し上げてなかったですよ、この子は車がすきなのかなって思ったけどもね。

あはは、興味があったわけじゃないんだ。傷つけてしまったこと、申し訳なく思ってますよ。本当に、あはははは。

その子が、ついにパパなんてねぇ。感慨深いですよ。

ボクも、二代に渡って入江さんのお車のお世話をさせていただけるなんてとても光栄です。
さて奥さん、ボクが今オススメなのは…


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あらあら、だし巻き卵は最初にボールの中で攪拌してからフライパンに入れないとだめよぉ!
…あらまあまあ、それ、スクランブルエッグにしちゃいましょうか。

泣かない泣かない、こんなの失敗のうちに入らないわよぉ。

奥さん、まだ帰ってこないわね。ちょっと休憩しましょうか、ね。

私は嬉しいのよぉ。ご主人とウチのが仲良くさせていただいてますでしょ。料理を教えてやってくれ、なんてたびたびお邪魔していたけど、奥さんったらとてもお上手なんだもの。

ねぇ、本当にお上手なのよね。私もホラ、研究家なんて名乗らせてもらってるでしょ、奥さんも十分料理研究家としてやっていけると思うわぁ。

奥さんも直樹君も、こんなかわいらしいお嫁さんをもらって幸せね。
初めてお会いしたの覚えてらっしゃる?

確か新作のケーキを食べてもらおうと思ってお邪魔したのよね。

そうそう、そこに直樹君もいらっしゃって。

アナタ、美味しい美味しいって食べてくださって。

ぴっくりしたのよぉ、そうしたら直樹君が「お前の作ったのはアリでも食わないだろうな」って言ったのよね。
正直、正直ね、私直樹君なんてひどいことを言うんだろうって思ったわよ。

あんなひどいことを女の子に言うなんて、ねぇ。

その直樹君が、今はウマイって食べてくれるんでしょ?
…え?何も言わずに食べてる?

あらまぁ…。
男の人って褒めるってことを知らないのよね。

さて、昔話はこのくらいにして、次は「酢豚」ね。
今日はパーティだって伺ったけど、ナニナニ、お祝い事でもあったのぉ?

え!?おめでた!?あら、三ヶ月なのぉ!?…

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保険のお仕事をさせていただいていて、なにより嬉しいのはこうしてご家族の皆さんの人生に関わってライフプランのお手伝いができることなんです。

なんて、奇麗事ですかね?

あはは、でも本当にそう思うんですよ。

思い出すなぁ。

入江様の担当をずっとさせていただいて、とくに坊ちゃまの…直樹さんと琴子さんのことなんか、ヤジウマ根性で気になっておりまして…あははははは。

そうですよね、奥さん。
ボクなんかでさえ、お会いするたびヤキモキしていたのに…勝手にですけどね。あはは。

こんなに早く結婚するつもりじゃなかった?
まあ、いいじゃないですか、こうして今はね、お幸せにすごしてらっしゃる。

あ、スミマセン、お茶をいただきます。

え?苦いといわれれば、ええ。でもこの渋みがいいんじゃないですか。

おや、本来は甘みの強いお茶ですか。お茶の葉を入れすぎた、と。

あははは、琴子さん、お気になさらず。

直樹さんも、そんなに怒らさんな。

妊婦さんは体調によって味覚が変わるんだよ。

あ、直樹さんはお医者さんでしたな、こりゃまた、あははは。

奥さんもさぞお嬉しいことでしょう。初孫。

え?赤ちゃんは、直樹さんがとりあげるんですか。
あはははは、直樹さんは外科医なのか、そりゃ無理だ。

奥さんなら特例としてゴリ押ししそうな…おっと、失礼。

あははは、奥さん、お構いなく。それでは、直樹さんと琴子さんとお話させていただきますね。

琴子さんと赤ちゃんのいいように、すべて任せていただける。
そうですか、かしこまりました。

お話からこちらのプランがいいと思うのですが、直樹さんちょっとパンフレットお渡ししますね。ではこちらが…

2008年7月24日

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