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宝島<2>

「なんでこんなに荷物が多いんだよ」
「えへへ、あたしもほら、ショルダーバッグ持ってるじゃない」
 温泉へは他の当選者と共にバスで行くとのことで、あたしと入江くんは集合場所の駅前まで歩いてやってきた。嫌そうな口ぶりではあるけれど、何も言わなくても荷物を持ってくれる入江くんが好きだなぁと、改めて思う。人だかりが見えて、あたしはぎょっとした。同じ年頃の女性ばかりだ。彼女たちの視線の先には、面白くなさそうな顔をした入江くん。あたしと入江くんは結婚指輪をする習慣がないし、第一あたしは入江くんの容姿につりあわない。カップルだとも、ましてや夫婦だとも思われていないだろう。嫌な予感を抱えながら、あたしたちはバスに乗り込んだ。

   ****

「美味しいっ」
 一時間余走った途中で寄ったSAで、あたしはトイレがてら、さまざまな食べ物を物色していた。入江くんはバスに乗るや否や寝てしまったし、話し相手もいない。ただ高速を走るだけの退屈な車内は居心地がよくなかった。
「フランクフルトきゅうり味……。きゅうりブームがくるのかしら」
 あたしは停車時間を忘れて、ひたすら食べつくした。まさか置いていかれることはないだろうと思っていたのだ。ふと顔を上げると、見覚えのあるバスがそろりと動き出していた。
「やだぁ! 待ってよ!!」
 バスは無常にも視界から消えていく。あたしは手に持った食べ物を口の中に押し込んで、バスの後を行く車の窓を叩いた。
「すっ、すいません! 前の、前のバスを追ってぇ!」

 


 


 

 

2011年3月4日up

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