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対人作用能力のとある二人における変化とそれがもたらす影響について

 一度安住の地を手に入れてしまうと、、男は自分がやりたいことしかしません。つまり、女が出したご飯を食べ、女が沸かした風呂に入り、いつの間にか換えられたシーツで眠ります。
 だらけきった男を叱咤するのもいいですが、それが日常の延長にあると効果も薄れるものです。いつもなら怒るところを少し方向性を変えて迫ってみましょう。


「よしよし」
 ソファで高いびきを掻いている僚の頭を香が撫でています。泥酔して帰宅し、そのままの格好で惰眠をむさぼっているというのに、香の顔は少し呆れた色をしていますが穏やかな聖母そのものです。
「ん……、ふわあああ……」
 僚が目を覚ましました。覗き込む香の顔を見て顔を引きつらせています。心情的には差し詰め「ヤバイ!」といったところでしょうか。
「おはよ」
 香は小首をかしげて、愛しそうに僚の髪を指に巻きつけました。僚は目をまん丸に見開いています。「何かをたくらまれている」とでも思っているのかもしれません。
「今日は何が食べたい?」
 家計を握っているのは香です。基本的に僚には、メニューのリクエストをする権限はありません。僚は好き嫌いはありませんし、はっきり言ってしまえば、食べられるものであればなんでもよいのです。金欠時にパスタばかりだったときに愚痴ったことはありましたが、香にぶん殴られて話は終わりました。ですから、香のこの発言は僚にとって信じがたいものであるに違いありません。
「昨日はお魚だったから……、今日はハヤシライスにでもしよっか」
 香はだんまりの僚ににこやかに笑いかけたままです。
「あの……」
 僚が、恐る恐る口を開きました。
「なぁに?」
 香は、まるで夜のとある行為を思い起こさせるような甘ったるい声で僚を更に覗き込みました。はらりと落ちた前髪が影を作っています。僚はその香の頭を引き寄せようと香の頭に手を回しました。二人の距離が近づきます。
「やっぱり無理っ!」
 香は僚を払いのけるようにして立ち上がり、テーブルに置いてあった雑誌を僚に投げつけました。
「どう考えたってあんたが悪いのに、なんであたしが下出に出なきゃいけないのよ!」
 香はとげとげしく言い放つと、足音を立てて部屋から出て行きます。僚は呆気にとられたような顔をして、投げつけられた雑誌を手にしました。

”ダンナを手なづける100の方法──いつも喧嘩ばかりしているご夫婦なら、ご主人がどんなに腹立たしい行動をとったとしても、まずすべてを受け入れてみましょう。ご主人の後ろめたい気持ちを攻撃するのです”

 僚はその一文を見て、ため息をついたまたソファに寝っ転がりました。
「香が実践できるわけがなかろうが」
 そんなことをせずとも、僚はとっくの昔から香に手なづけられているのです。僚があまりにも挑発する行動をとるがために、香自身気づいていないだけなのです。
「さてと、殴られに行くかぁ」
 僚はすっかり気づいているようです。首をコキコキ鳴らして台所へと向かいました。
 心なしか嬉しそうな僚の悲痛な叫びがアパートに響き渡ります。かくして、香は普段の彼女自身に戻ったのでありました。


2011年6月11日up

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