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もっと-again

 

「ピザでも取るか」
「う、うん!……ひゃイタ……!」
「舌噛んでんじゃねぇよ」

 直樹は自分の首にかかる琴子の腕を解いて、顔をくしゃくしゃにして痛がる琴子のおでこを小突いた。

「……からいのはひやらなぁ」

 琴子は、台所の隅で出前用のチラシを探る直樹の背中に話しかけた。

「なに?からいのは?」

 直樹が笑いを含んだ声で尋ねる。琴子は大きく息を吸って、舌を出しながら大きな声を出した。

「ひやれす!」
「お前、まず水飲めよ」

 つっけんどんな物言いをしながらも、直樹はいつくしむような目で琴子を見た。琴子はこくんと頷くと水をいっきに飲み干した。

「ふぅ……おいひ」
「ピザよりそばのほうが食べやすいか」

 出前そばのチラシを手に取り、直樹は琴子を向いた。

「いりえくん、へん……やさしいの……」
「黙ってろって」
「ふぁい……」
「冷たいそば、適当に頼んどくから」
「ふぁい……」

 手短に電話で注文をすると、直樹はまたテーブルに座って琴子の顔を覗き込んだ。

「まだ赤いな」

 コップに水を汲んで、直樹は琴子の前に置いた。

「もういっぱい飲んだら、うがいしとけ」
「ふぁい……」

 琴子はゴクゴクと喉を鳴らしていっきに飲み干すと、よろよろと立ち上がり台所へ向かった。水を汲んでコップを口につけたとき、その後ろから直樹が抱きしめた。

「ひゃあっ」
「なに」
「なん、なんで、なに……?」

 琴子は目をまん丸にして、目の前に交差された直樹の腕を見ている。直樹は琴子の髪に顔をうずめて、腕の締め付けを強くした。

「うがい、どーぞ」
「やっぱ、いりえくん……へん……」

 口に水を含んでは吐き出すこと数回。充分に舌を冷やした琴子が身体をもぞもぞと動かすと、直樹は腕の拘束を緩めて正面から琴子を抱きしめた。

「もう大丈夫か」
「う、うん、多分」
「じゃ、遠慮なく」

 直樹の手が琴子の顎にかかる。直樹は顔を斜めにして深く琴子に口づけた。琴子の腕が直樹の首に回されると、直樹は角度を変えてなおも深く口づける。二人は玄関のチャイムが鳴るまでずっと、口づけては抱きしめあった。

 

2010/3/11up

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