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●キスのシチュエーションで20題(その1、2)より

返事の代わりに

 入江くんは今日も仕事を家に持ち帰っている。「遅くなるから先に寝ろ」とは言われたけど、あたしだって入江くんを助けたい気持ちは大いにある。頭の出来がもう少しよければそれに越したことはないけれど、こればかりは今更嘆いても仕方がない。だから、あたしはあたしの出来ることをする。

「入江くん、コーヒー入ったよ」
「ああ、サンキュ」

 ドア近くで声をかけると、肘を突いて、らしくなく眠そうにとろんとした目をした入江くんが振り返った。

「寝てた?」
「ああ……今何時?」
「1時少し過ぎたとこだよ」

 入江くんはため息をつくと、書類を整えてお盆を置くスペースを作りながらあくびをした。

「多分寝てた……。お前も早く寝ろよ」
「うん、ありがと……入江くんも、ね」

 コーヒーを置いて笑うと、入江くんはあたしの肘を掴んで無理やりあたしをその腕に封じ込めておでこに音を立ててキスをした。その音がとてもいやらしく聞こえて、あたしは身体が固まってしまう。

「どうした」
「えへへ」

 腕の拘束を解かれて、身体が自由になる。あたしはおでこに手をやってお盆をそっと取った。

「おやすみなさい、入江くん」

 そろそろと後ずさりして、逃げるようにドアを閉めた。そうでもしないと、あたしが入江くんを襲ってしまいそうだったから。

 

 

2010/06/17up

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