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ふたりぼっち

今日はおかあさまたちは佐賀へクラス会に行っていて留守。裕樹も泊まりがけの宿泊研修。入江くんは雑務で遅くなるみたい。

ドアを開けても人の気配がしなくて、ちょっぴり寂しかったけれど、たまには一人の食事も悪くないわよね。お行儀は悪いけど、テレビをつけっぱなしにして食べちゃおう。そういえば、ナラサキ君が音楽番組に出るのって今日じゃなかったっけ。

 

 

「おい」

肩を揺すられて顔を上げると、ぼやけた目線の先に呆れ顔の入江くんがいた。

「ねっ寝てた」

あ、よだれ。気付かれないうちにこっそりぬぐっとこ。

「なによだれたらして寝てんだよ」

……バレバレだったのね。

「テレビがついていて部屋にも明かりはついてる。なのに電話には出ないし」

「ご、ごめんなさい」

「食事の途中で寝るって、ったくガキじゃあるめーし」

あんまりびっくりさせんなって軽く小突かれた。そういえば入江くん、まだコート着たまんま。心配かけちゃったんだ。

「入江くん、ご飯は?」

「食って来たよ。めんどくさいからおまえの働いてたレストランで」

「レストラン?ファミレス?」

「牛丼とたまご、ごぼうサラダ」

「きゃー!思い出させないでよっ」

お返しにもろきゅうをぐいぐい顔に近づけたら、こめかみを左右からぐりぐりされた。痛い。入江くんごめんなさい。

 

 

いつの間にか切れていたテレビをつけると、外国の映画が流れていた。なんかこれ、見たことあるな。

「懐かしいな、シザーハンズ」

着替えた入江くんが、ビール缶を二つテーブルに置いて、ソファーに座るあたしの横に腰掛けた。

「あ、これって」

松本姉と入江くんのデートを尾行してた時に見た映画だ。

物語はだんだんと佳境に入っていく。せつなくてぐびぐびと一気にビールを煽ったら、むせてよけい苦しい涙がでてきちゃった。

「ぐ…ごほっ…うええん…」

「お前は…泣くか飲むかのどっちかにしろ」

「ご…ごめ…」

背中に回された入江くんの手が、優しく背中を宥めてくれる。

あたしは入江くんにそのまま体を預けて抱きついた。ふんわり、ソファが沈んで、入江くんのシャツをぎゅっとつかんだ。

「入江くん」

「なに」

「大好き」

「誘ってんの」

「ちょっ!ち、違うわよ!だって、このお家でふたりっきりなんて随分久しぶりじゃない?高校のあの時は、あたし入江くんと結婚できるなんて思ってもみなかった……ううん、お嫁さんになりたいなとは、ちょっとは思ってたけど、現実味がなかったし」

「酒に力を借りて告白かよ。おまえそういや最近スキスキ言わなくなったよな」

「う……だって」

「なんだよ」

「は……恥ずかしくて」

恥ずかしさで入江くんの胸に顔を伏せると、入江くんの体がふるふると揺れ出した。

「お前、高校や大学であれだけ好きだ好きだ言っておいて、今になってはずかしいの」

入江くんは声を震わせて笑ってるけど、でも、だって。

「朝起きて、入江くんの寝顔を見るたび、病院ですれ違うたび、どんどん好きになるの。好きって言葉じゃ表せないくらい……」

恥ずかしい恥ずかしい!きっと入江くんは呆れてて、あたしは一人で顔を真っ赤にさせてる。おそるおそる顔を上げて入江くんを見ると、いつものいじわるな目じゃなくて……、目を閉じてあたしの髪をいじっていた。ほっぺたがちょっとだけ赤いのはビールのせい?

「告白、終わり?」

「え」

ぐるんと世界が一回転したと思ったら、いつの間にか入江くんに押し倒されていた。

「なっ……」

「……どう考えても」

「え」

「お前、誘ってるよな」

額とほっぺたにちゅっとキスをすると、入江くんはあたしを見下ろして囁いた。

「せっかくだし、二人でシャワーに入ってから……」

「ええええっ」

「……お前、煌々と明かりの付いた中電話にもでないで、どれだけ心配したと思ってるんだ」

「ごめんなさい……」

「じゃ、風呂いくぞ」

あたしを横抱きにして(お嬢様だっこというやつね)風呂場に進む入江くん。さも当然といった感じで、あたしはわくわくと少しの不満を感じていた。

「入江くんだって……めったに好きっていってくれないよ」

入江くんは足を止めてふうとため息を一つ。

「毎回のようにいってんだろ」

「毎回?」

「だから、夜……」

耳元で熱っぽく囁かれたその言葉は、確かに聞いたことがあるようなないような……。

でもそんなすごい台詞、入江くんがこのあたしに言ってたなんて!

照れと恥ずかしさで湯気がたちそうな(いや、絶対もうたってる!)あたしの顔を、追い打ちをかけるように唇でなぞっていく入江くんが愛しいのかくすぐったいのか、多分その両方なんだけど、とても優しくて……。あたしは流されるがまま、その腕から下ろされて浴室のドアを開けた。

2008年12月26日

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