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ここにたしかにあるもの

履き慣れた靴の中に雨が染みる。
足の先を動かすとぬるりと靴下と靴の擦れる感触があった。

電車が闇を照らし駅にたどり着くたび、濡れて不快に張り付く前髪をかきわけて前を見遣ると、ぼんやりと黄色い明かりから、いくつもの傘が開く。

人の波を割るようにとぼとぼと女が歩いてくる。女は傘を差していなかったので、激しい雨に髪と肩が重たく濡れていた。
小走りに道を急ぐ中、行き交う人々は横目で女を盗み見る。自然と彼女の周りには空間が生まれ、駅からさす光に浮かび上がっていた。

まるで神が海を割ったように見えたので、直樹は息をすることも忘れ、導かれるようにこちらへ歩むその女を見つめていた。

2008年12月10日

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