dependence.>text>お題でイタキス > ふたりぐらし>001 : おはようのかわりに

001 : おはようのかわりに

エアコンのオートオフが効いていなかったらしい。

シーツを手繰る手がいつまでもそのぬくもりにたどり着けないことに気づき、俺はごろんと寝返りを打った。そういえば、何かを焦がしたような香ばしい匂いがする。薄目を開けて台所をうかがうと、そこにいるはずの琴子の姿はなく、煌々とオレンジの光が灯る電子レンジの戸の隙間からは白い煙が出ていた。
「この間に髪の毛乾かしちゃおっと、かっみのけ、かっみのけ!」
 開け放しの洗面所へ通じるドアの奥から、ごきげんな琴子の鼻歌が聞こえてくる。俺は笑いをかみ殺してそのときを待った。派手なバイクの排気音のような音を立ててドライヤーが鳴る。そのときはすぐに訪れた。
「やーん、ブレーカー落ちちゃった! 入江くーん!」
 朝方の薄暗い中で、ドライヤーを床に音を立てて置き、泣き喚く声が聞こえる。俺は自然とにやける頬を軽く叩いて眉を寄せ、琴子を迎えに行った。
「お前、鳥目の癖になにやってんだよ」
 しゃがみこむ琴子を引き上げると、細い腕が体に絡みついてくる。髪の毛を撫でながら、俺はそのぬくもりに心が安らぐのを感じていた。

2011年3月22日

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