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いつもどおりに偶然に

 いつものように、校門に人だかりが出来ている。私はトイレから出てきた千草ちゃんを急がせて外へと走った。

「渚ぁー!」
「せんぱーい!」

 せっぱつまった渚の声もいつもどおり。短大は一日が長くて、部活のない日は渚が学校帰りに待っていてくれる。女子短大に男、しかも高校生が来るのはとても珍しいらしく、渚はいつも短大生に囲まれるのだ。

「じゃーね、響!」
「うん、明日ね!」
「先輩、またー!」

 千草ちゃんと渚を送り出した後、先生のことを思うのもいつもどおり。

「先生、なにしてるかなぁ」

***

「……と思って部屋にきてみたら、男子生徒がいたからこっちにきたのね」
「……いつもごめんなさい」

 中島は「いいけどね」と少し笑って、紅茶を入れてくれた。

「電話してからにしなさいよ」
「……ですよね……」
「あれは長くなるわよぉ」
「やっぱりゲームですか?」
「いつものメンツだもの」
「はぁ……」

 隣の部屋――先生の部屋から男子生徒のはしゃいだ声とぼそぼそしゃべる先生の声が聞こえてくる。

「あ、そうだ。浩介元気ですか?」
「元気みたいよ」

 浩介の話を振ると、中島は少しだけはにかんだ笑顔を見せる。私が高校生だった頃は敏感には気がつかなかったけど、中島だってちゃんと恋してるんだ。

「電話、したら?夜までいるわよ、あの様子だと」
「……そうしてみます」

 携帯を鳴らすと、隣の部屋からくぐもった着信音が聞こえた。いつもながら、あれはなんのメロディだろう。

『おう』
「先生、私」
『うん、なした?』
「今中島先生の家にいて……」
『おう、りょーかい』

 そういうと先生はぷつりと電話を切った。外が騒がしくなり、自転車の音や足音が遠ざかっていく。

「もういいんじゃない?」
「はい、先生ありがとうございましたー」

 紅茶を飲み干して玄関へ向かうと、いつものように中島に呼び止められた。

「また顔見せてちょうだい」
「ありがとうございます」

 先生の家のチャイムを押すと、中から「開いてるぞー」と声が聞こえた。

「島田でーす」

 いつもどおり、名乗りつつドアを開ける。先生の笑顔もいつもどおり。

***

 家に着いたときに「着信メロディはなんだったか」を聞きそびれたと思い出すのも、いつもどおり。

 私はいつも、楽しい。

2010年4月23日

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BGM:「予定どおりに偶然に(withASKA)/KAN」

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