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002 : 夜明けと共に

一人で食べるピザがこんなにも味気ないなんて。

直樹は今日、初めてのクリスマスの夜勤でそれを嫌というほど思い知らされた。

今月に入ってから、ろくに休みを取っていない。夜中に帰宅し、朝早く家を出る。琴美はもとより、琴子ともすれ違いの生活が続いていた。

今日は実に3週間ぶりに、19時を回るまでに雑務を切り上げた。

 

西垣は絶対的な立場にあり、新人の直樹が勤務の変更を断れる理由にはない。

控室で夕方、帰宅できないと短くメールを打つと、琴子はワンコールだけ直樹の携帯を鳴らした。

まるで拗ねたように……。

まだ抱っこが大好きな琴美が、それ以上に好きな「本物の携帯」を勝手にいじったのかもしれない。

 

先ほどまでギャンギャンと火がついたように泣き喚いていた子供たちの波もおさまり、閑散とした待合室では子供向けのアニメビデオが、むなしくかかり続けていた。

琴美はもう寝ただろうか。琴子はむくれているだろうか。

窓の外から紫を帯びたきらびやかな光が差し始めた頃、控え室で携帯を開くと、メールが一通届いていた。

本文は無い。添付の写真は暗くてよく見えないが、毛布に顔をうずめた琴美が布団に丸まっていた。

枕元の赤い靴下には少女アニメの人形を押し込まれており、細い手がピースサインの形で写っていた。

薬指に光る指輪に気付いて、琴子へのプレゼントを買いそびれていたことに気付いたとき、空にはもう薄い水色が広がっていた。

2009年1月23日

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