dependence.>text>お題でイタキス >011 : ラーメン
いかにもこの道一筋といった、タオル鉢巻きのおじさんの合図で、琴子と直樹は麺に箸をつけた。
直樹や琴子は、職業柄食事にかかる時間が少ない。
大食らいというわけではない。ただ、食べるのが早いだけ。
やはり、大抵は圧倒的に直樹が早いのだが、医師と看護師という関係が長くなり、同じ食卓を囲むことが少なくなった最近はわからない。
直樹は、琴子の殆どの能力を超えている。
でも琴子は思う。単純に男女差からくるものであれば、いつか自分が超えられるかもしれない。
天才だって人の子である。その隙を窺い続けて早何年。
たまたま通り掛かったラーメンやさんの、ありきたりな「30分で完食できたらタダ(但し失敗したら五千円いただきます)」との貼紙にまんまと惹かれた琴子は、直樹を引きずって勝負を挑んだのだ。
持ち上げることすら不可能であろう重い大きなどんぶりは、琴子にはタライのようにも見えた。
ラーメンは美味しかった。最初の何分かは。直樹が平らげた15分過ぎからは、己との戦いになった。
20分をすぎた頃、琴子はそっとどんぶりを直樹に寄せた。
したり顔のおじさんと、笑いが止まらない直樹に、琴子はリベンジの決意を新たにした。
了
2009年2月2日