dependence.>text>お題でイタキス >014 : 風船
俺がまだ、女の恰好をさせられていた頃、親父の会社のイベントに家族で行ったことがあった。
戦体ヒーローやロボットのなりをした奴らには目もくれず、俺はヒラヒラのワンピースを着た女のキャラクターに近づいて、赤い風船を貰った。
とても嬉しかったのを覚えている。
でもイベントを周るうち、指にひっかけたその風船が邪魔になってきて、それはふとした弾みで手を離れた。
空高く舞い上がり、風に乗って飛んでいく赤い風船を指差し、俺は泣いた。
あの風船は二度と手元に戻ってこない。
俺は、風船が大好きだったのに。
今琴子を手放したら、あの時と同じように、俺の見えないところに行ってしまうんだろう。
もう、俺の手を離れてしまっているとしても、俺はもうガキじゃないから、取り戻す方法を知っている。
心なしか強張る頬を叩いて、俺は駅へと向かった。
了
2009年2月11日