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017 : 瞬く星

「そういえばね」

 俺の三歩前を歩いていた琴子がこちらを振り返って言った。

「あたしの淹れたコーヒーって美味しい?」
「……まあまあなんじゃねぇ……」
「あは! あれね、テキトーなの! テキトー! 入江くんコーヒーの淹れ方知ってる?」
「まだ酔っ払ってんのか」

 腕を取って無理やり自分の腕に絡ませると、琴子は熱い身体を密着させて、ほうっとため息をついた。まだ酔いは冷め切っていないらしい。

「……酔っ払いが」
「いーじゃんたまには」

 ケラケラと笑い、俺にぶつかっては跳ね返るを繰り返している。

「きれいな星だねぇ」
「……お前は話が飛ぶな」

 空を見上げると、人工衛星らしきものしか見えない、酔っ払いには、あれが星に見えるのか。

「あの一番光ってる星は北極星かな」
「人工衛星だろ」
「えっ」
「人工衛星」
「……えっ」
「……お前、顔にやけさせてんじゃねぇよ」

 額を小突くと、琴子は「ばれたか」と舌を出した。薄い唇の間から少しだけ見える赤が悩ましい。

「東京じゃ、星なんて見えないもんね」

 両肩を抱いて唇を割る。舌を絡ませると強いアルコールの味がした。全部飲み干したくて更に奥を探ると、琴子の手が俺の背を掴んで身体を摺り寄せてきた。小さなふくらみが押しつぶされるのが分かる。触れたくて手を肩からすべり落とすと、琴子は力が抜けたかのように俺にしなだれかかってきた。

「……続きは部屋で?」

 耳元でささやくと、琴子がいやいやをするように俺の胸に顔をうずめてつぶやいた。

「……今、目の裏で……、星が沢山、たくさんキラキラしてた……」
「……ふぅん」

 琴子の肩を抱きなおして歩き出す。空を見上げると、あの人工衛星が流れ星のように街の明かりの中に飛び込んで消えた。


2010年10月24日

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