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018 : 背中(R-15)

 行きかう人の合間をかいくぐって、繁華街を抜け、駅近くまで手をつないで歩く。駅の明かりが影を作る場所まで差し掛かったとき、今日どうしても入江くんにお願いしたいことがむくむくと頭をもたげて、心を支配し始めた。歩みを急に止めてみる。手を引っ張られて怪訝そうに振り向く入江くんのその姿が見られなくて、うつむいて入江くんの手を離した。

「なんだよ」
「あの、あのね」
「なに」
「もっと……」
「聞こえない」
「……もっと、入江くんと外でいちゃいちゃしたいなあ……なんて」

 あたしは、随分と酔ってるのかもしれない。

「……琴子も随分大胆になったなぁ。じゃ、この先にある公園で」
「きゃあ!違う違う!道路で立ったままキスとかしたいなーなんて」
「昔雨の中キスしたじゃん」
「あれは違うの!」
「その後にも何度もした気がするけど」
「え……そお?」
「ま、でも琴子のおねだりからってのはないかな」

 入江くんはあたしの腰を抱き寄せて、耳元で囁いた。温かいぬくもりに眩暈がするほどの安心感を覚えて、あたしは目を閉じた。

「じゃ、するか」
「……酔ってる?」
「うん酔ってる」

 腰に巻きついていた入江くんの腕が解かれていき、ぬくもりが遠くなる。両肩に手を置かれて向き合う。キスされる──。自分が望んだことなのに、未だにこの瞬間には慣れなくて、肩が、全身が硬直して、思わず下を向いてしまう。あごに手を添えられる。荒れた入江くんの指先があたしのほっぺたを優しく撫で、肌がチクチクと痛かった。

 入江くんの顔がゆっくり近づいてくる。唇の触れるそのときまで入江くんの顔を見ていたいのに、やっぱり恥ずかしくて、あたしは入江くんの背中に両手を回した。触れるだけのキス。おでこをくっつけて入江くんがクスクス笑ってるから、あたしもつられて笑ってしまう。

 突然、入江くんの顔が視界から消える。顔を斜めにしたと思ったら唇を食べられそうな位深く塞がれた。同時に、割られた唇の間から舌があたしの口の中を侵食していく。あたしはぎゅっと入江くんの背中を握った。

 入江くんの舌が、あたしの舌を捕らえる。絡み合い、舌の裏側をくすぐられる。通り行く人の冷やかしには我関せず、入江くんはあたしの上あごを舌でなぞり、更に口付けが深くなる。ぞくぞくとした快感が身体全体に広がり、身体に力が入らない。身体の中心が熱くなって、あたしの身体はもっとと叫ぶ。自分のふとももを擦り合わせて堪えようとしたけど、入江くんがそれを察してかあたしの足の間に片足を滑り込ませた。自分ではどうしようもできないほど入江くんを感じたくて、入江くんのふとももに足の付け根をこすりつけてしまう。恥ずかしい。それでも入江くんはあたしの唇を解放してくれない。

 やっと入江くんの束縛から解放された時、あたしはへなへなと路上にしゃがみこんでしまった。

「どうした」
「や……やりすぎよっ」
「残りは……今日は公園はやめとくか」
「当たり前でしよっ!も、もお……!」
「帰るぞ」

 差し出された手にすがりつくようにして、足を踏ん張るけれど、腰が抜けたように力が入らない。

「た、立てない」
「……バカ」

 入江くんが後ろを向いて、手を引っ張ってあたしを背に誘導する。そのままおぶさると、入江くんはあたしのおしりに手を回した。途端、触れられた所に電気が走ったような刺激を覚えて、あたしの身体が跳ねる。

「きゃっ」
「なに」
「なんか……、触られると、……変になるの」
「……ふーん 今夜楽しみだなあ」

 あたしの顔は真っ赤だろうけど、きっと入江くんは笑ってる。家に帰った後のことは、今は考えない。背中から伝わる心地よいぬくもりに、あたしはそのままぐっすりと眠りに落ちた。目を覚ますと、下着姿のあたしが上半身裸の入江くんに覆いかぶされていて、あたしはまた目をぎゅっと閉じた。


2009年9月4日

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