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036 : 対峙


「……チョ、チョコじゃないから甘くないから捨ててもいいから!」

 廊下に響く高い声で一息に言うと、琴子はラッピングされた小さな箱を直樹の目の前に突き出した。

「いらな……」
「いらなくない!」

 琴子は直樹の言葉を遮ると、リボンの取れかかったその箱をさらにぐいぐいと押し付けた。

「……何」
「……生キャラメル」
「ああ北海道の」
「……えっと、東京の」
「は?」
「……世田谷産、です」
「手作り?」
「……そう」

 今にも消え入りそうな声で琴子は「きっと美味しいよ」と呟いた。

「それ、甘いんじゃねぇの……よっぽど、チョコよりも」

 直樹はリボンの端を引き、箱を開けた。ところどころに焦げのある、いびつな形のキャラメルが甘ったるいにおいを発していて、直樹は少しだけ眉をしかめた。

「用ってそれだけ」

 直樹は今にも影になって吹かれてしまいそうなほど縮こまっている琴子を見ると、少し笑って促した。

「えっと……うん」
「ふぅん」
「バッ、バレンタインだから!」
「だから?」

 直樹は箱をトントンと不機嫌そうに叩いた。琴子はなおも縮こまる。

「だ、大好きだから!」

 琴子は顔を真っ赤にして叫ぶと、自分の部屋のドアを勢いよく閉めた。直樹は満足げに笑い自室のドアを開けた。


2010年1月30日ブログ掲載/2010年4月up

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