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056 : 振り返る

「いつから?」

 渡辺はハイボールを片手に肘をつき、直樹を見て表情を崩して言った。グラスの中で氷がカラカラと鳴る。

「なにが」

 面白くなさそうな顔をして、直樹は焼き鳥を一口で串から抜き去り、肉をほおばりながら肘をついた。

「琴子ちゃんのこと」
「琴子がなに」

 肉を噛みながら直樹もハイボールをあおった。水滴がグラスからしたたり落ちて、直樹の袖を濡らす。直樹はおしぼりでそれを丁寧に拭いて、それから渡辺を見た。

「好きになったのは入江からなんだろ」
「……なんだお前はバカだったのか。今ようやく分かったよ」

 渡辺は刺身醤油にわさびを溶かしながら、笑いをこらえきれずに吹きだした。

「なんだよ」
「いや、もう結婚までして子供もいるのに、入江は本当に変わんないなと思ってさ」
「……今更だろ」

 渡辺は目元を緩ませて遠くを見つめた。

「今更だろ」

 直樹はため息をついて、再び渡辺の同意を待った。

 


2010年3月3日脱稿/2010年4月up

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