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065 : 形の無いもの

「に、荷物ありがとね」
「……これ」

 重たいスーパーの袋を台所に置くと、入江くんはかばんの中からお弁当箱を出してテーブルに置いた。

「ど、どうだった?」
「……感想を聞こうっていう度胸だけは認めるよ」
「えっ、どういう……」

 あたしは袋から野菜を取り出す手を止めて、入江くんを伺うように見上げた。入江くんの背広は少しよれて、顔には疲労の色が見える。呆れたような顔をして入江くんはためいきをついた。

「……じゃあな」
「あの……美味しくなかった?」
「……俺、二階に行くから」

 そう言うと、入江くんは階段を上がっていった。野菜や牛乳を冷蔵庫に入れ、椅子に座る。そうっとお弁当箱を手にとると、思いのほか軽くて、あたしは慌てて包んでいたハンカチを解いた。ふたを開けるとお米粒の一粒も見当たらないほどきれいに食べてくれていて、心がじんわりと温かくなる。あたしは鼻歌交じりにお弁当箱をシンクに置き、腕まくりをして冷蔵庫を開けた。今日の晩ご飯と、明日のお弁当のおかずはなににしよう。

 

2010年3月11日脱稿/2010年4月up

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