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073 : 最終兵器

 フライパンを火にかけ、強火にセットする。油を多めに注ぎいれると白い煙がもくもくもくと立ち上ってきて、あたしは火力を中くらいにした。大きめに切ったネギを入れる。ジュッと音がして、あっという間にネギが焦げていく。香ばしい匂いが鼻をくすぐる。

「いっけない!」

 あたしはあわてて塩コショウをネギにふりかけた。入江くんも天才だけれど、塩コショウを開発した人も天才だとあたしは思う。塩とコショウを分けてふらなくていいんだもん。最後にラー油を二滴だけたらして、あたしはフライパンの火を止めた。きれいにお弁当箱に詰めて、誰も見てないのを確認してから、あたしはお弁当箱のふたにキスをした。美味しく食べてくれますように。

「でも……」

 お父さんはよくお弁当を作ってくれたけれど、なぜあたしのお弁当にはネギを入れてくれなかったんだろう。

「あたしがバカなのは、お昼にネギを食べてなかったのもあると思うわっ」

 大判のハンカチに包もうとお弁当箱を手に取ると、底が熱くなっていた。

「……冷まさなかったのはちょっと失敗、したかなぁ」

 耳たぶを触り手を冷やしてから、今度は指先でそうっとお弁当箱をずらしてハンカチの真ん中に置き、きつめに結び目を作る。

「できたぁ!」

 みんなが大変で忙しくて、あたしに出来ることはこのくらいしかない。少しでも入江くんの役に立ちたいから、早起きするのだって苦じゃない。

「さぁて、次はトーストを焼かなきゃっ」

 あたしは腕まくりをして冷蔵庫を開けた。

 

2010年3月9日脱稿/2010年4月up

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