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088 : ジャンプ

「……へぇ」

 思わぬ告白に言葉が詰まり、やっと搾り出せたのは炭酸の抜けたビールのような気の抜けた言葉だった。

「意外だろ」
「……俺の言いたいこと全部言うなよ」
「全部なのかよ」

 入江は笑うとビール瓶を手に持ち俺を促した。トクトクと黄金色をした液体がコップに注がれていく。

「自分でもどうかしてると思うよ」
「じゃ、なんで急に結婚なんて」
「まぁ、なんとなく」
「はぐらかすなよ」

 俺もビール瓶を傾けて入江を促した。入江は溢れた泡をこぼさないようにすすってから、いっきにそれを飲み干した。

「あいつには力負けだな」

 入江は口角を上げてにやりと笑うとつまみに手をつけた。

「ふぅん……」
「……なんだよ」

 入江は今までずっと、拒絶をしながらも琴子ちゃんとの曖昧な関係を楽しんでいたように見えていた。琴子ちゃんの出没そうなところに罠を仕掛けたり網を張って捕獲していたのは、実のところ入江本人だとしか思えなかったのだけど、こいつは今になってまでも認めたくないのか、心の中では惚れきっていたのか。

「釣った魚に、エサをやりたくなった?」
「魚?琴子が?」
「魚拓でもとって、飾りたくなった?」

 からかい半分、興味半分で核心に入っていくと、入江は大きなためいきをついた。手酌でビールを注ぎ、また一気にあおる。

「どっちかというと」
「うん」

 口についた泡を腕でぬぐうと、入江は遠くを見つめた。

「生きたまま水槽で飼いたくなった」
「……ごちそうさま」

 入江のグラスに勢いをつけてぶつけると、黄金色の液体が激しくゆれ、こぼれた液体の粒が飛び散り手がビールまみれになった。楽しい酒になりそうだった。


2010年3月9日脱稿/2010年4月up

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